第九章
ふと占いのジョニーに会いに行く僕。ケラケラなフードをうざったげにかむりなおしてジョニーはささやいたんだよな。環境に汚染されつつある僕は自分が誰であるのか既に見失っていた。大衆を画家にして一攫千金だと。皆が絵を描くんだ。シャガールだ。だれそれ。まあいい。才能なんて気づいたその日からスタートする。気づかせてはいけないんだと仲間たちはいう。そう、簡単だから。僕等がやっていることは本当は簡単な事をさも難しいかのように見せて火炎を浴びせることだ。相手はまっくろ。僕等はグレー。焦げたら捨てるしかない。
フィルゼンシャガール。まさに!ってカンジ。
最近ハヤリのソード。剣のことだ。青山にあるワールドソードソサエティーにはソードマニアが毎秒集結。情報交換にいそしむなんてことね。壁には柄を頭にした武器達がずら〜と勢揃い。宝石店ばりの背広の店員が、お取りしましょうか、なんてなもんだ。剣ったって、大きいし、切れるし、目立つし、何といっても銃剣等法違反で逮捕もおいしい、とにかくビックなイベントが目白押し。決まりきった楽しみにはもうアキアキで、手を出すとしたら「楽しくないこと」ぐらいが手ごろなのさ。これは誰も手を出していないし、すぐ見つかる。ブスが新機軸なんだ。社会的標準のデフォルトがないから言ったもんがちのソサエティ、なんてね。僕はA10神経を操作、スライドさせて美人に見る。
快感、それは習慣。耐え続ければそれは快感になるんだ。それでなくてはいけなくなる。もっとさげすんで!ってこと。不幸は不幸をよぶ。でもそれは知らないうちに望んでいるってことさ。聞いてるかタツオ?
実は僕とタツオはツガゲイしてマニア御用達の店を覗いてるとこ。剣がならんでいるとくらくらしてくるがそれはタツオも似たようなことらしい。時々床のライオンカーペットをほれぼれ眺めるように見せかけて一休みしてる。あんまり見てると襲われるぞ。マジで。SEXの快感なんてたかがしれてるかんねー、とか思ってみたりして。いらっしゃいませなんてさ、なーにいってんだコイツってさ。靴に閉じ込まれた僕の足。いつも囲まれてる。だめだ、くらくら絶好調だ。だが、ここで負けてはいけない気がするんだな。どうでもいいことって多いけど、こういう時にこそニンゲンの真価って問われる気がするんだ。なあ?タツオ?
「ぐわあああお」と壁に埋め込まれたハク製のシカが鳴いた。閉店の合図だ。くそー敵前逃亡する気か?このヤロウ。ホッとするなタツオ。殺すぞ。店員が壁に掛けてあったソードを赤いフエルト布でそっと包み床におろしていく。気が付くとお客(ほんとか)は僕とタツオだけだ。逃亡を迫られている。ソードはどんどん床に配置されていく。よもや!と思ったが僕等を含めてピッタリ床を埋めたところで壁のソードは無くなった。
「俺っちも社会の一員ってことらしいぜ」
家は一般道路への通路がないと建てることができない。従って僕もタツオも一般建築物ではないってことか。家にもなれないダンボールハウス。でも認めてくれなくっても僕等にとっては住むことが目的。日々の生活。それが出来て初めて未来がある気がするんだ。居ることだけは認めてくれさ。
なあ?タツオ。
店内のライトが消えた。それまで気がつかなかったが今日は満月らしい。外界とつながっているショーウインドーから青い光がさしこんでフエルトを白く浮かび上がらせていた。タツオは足元のちょっと大きめのソードに腰掛け(なんてことを!)寝に入ろうとしていた。ツガゲイにはSEXの概念はないから別にドキドキとかそういうのはないが他人と12時間以上一緒にいられるときこそ大事な気がするね。
夜を越えるのは、なにも恋人達だけの特権ではない。
昨日のレジチェックをし、明日の品揃えをする。
細胞膜の境目が消え、遺伝子操作。核質に触れたい。
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