外伝
うそだって。そんなことないって。だいじょうぶだってさ。
天気予報だってそういってるし、なにもキミがそんなに背負うことないんだよ。
「山ではさあ、霧が張ってるんだよねえ。ぴいいんてさ、張ってんだよ。ぴいいんと。霧って本来うももってするものだけど、寒さがヒフを張らせるんだ。タコ貼ろうよ。タコ」
カノコがオーバーヒート。そう、山ん中。テント張ってます。たき火焚いてます。熊待ってます、てなとこ。テントを張るロープだって皆が皆がんばっているワケじゃない。一本ゆるゆるなやつが居て、残りの三人が知らずに頑張るって図。でもそれは客観的にみたらのお話で各自はそれぞれベストを尽くしていると思うよ。でも抜けそうなピンがいてね。
カンテラのほのおがゆらゆらと影をゆらす。もうだめですお父さんお母さん元気で余生をくらしてください。バカ息子より、って書きたい僕の万年筆の影もゆらゆらし、字もゆらゆら。あ、たんに物理現象だから気にしないでね。
寝袋にくるまったカノコの口だけがぱくぱく動いて空気を揺らしている。
鼓膜がゲット。
「ねーねーバカやってないでさ、明日のルート決めないとそうなんです、とかいわなくっちゃならないよ。カメラもないし。」
テントの布がばたばた。ジーパンの生地で出来てるんだって。ゴメン反対か。
「でもさ、頂上でビバークするバカあたしたちくらいよね。もろ風うけて。時代に刃向かうってか?」
「自然に刃向かってどうすんだよ」
「だめよ刃向かわないと。マグマでどろどろじゃない。絶対負けるわよ。核弾頭だってムリ。核融合だってもとは地球のものなんだから。」
じー、っとジッパーをおろしてむくっとカノコは起き上がる。テントの外に顔だけ出して熊を警戒。ケツむけてんじゃねえよ。
「ねえ、夜明けってさあ、なんというか核戦争でめちゃめちゃになった世界でもさあ必ず太陽って昇ってくるじゃない?その時ってカンジがいつもするのよね。よどんだような、きいんと張ったような。人類でもさ、生き残っている人たちはごくわずかでさ、体もぼろぼろだから明日にはみんな死んじゃうの。だから、そのときその人たちにとって、ううん、人類にとって、うう〜んと、夜明けっていう概念がニンゲン特有のものだとしたら夜明けは最後の夜明けってことになるのよね。」
「ごめん遺書書いてるからあとにして」僕。
カノコ気にせず。
「毎日最後の夜明けを体験してるってどんな気分かね。エブリデイ臨死体験ってとこか。毎日走馬灯。毎日再生させる人生が1日ぶん増えていくのよ。そうすると再生されるときの1日当たりの時間が減るの。へたをすると60分の1秒とかになったりね。でも余裕なんだ。レッツメディアレイプってとこ。ブライアンさ〜ん、」
ピンが二本となった。夜明けまでは3時間ある。また死して死にゆく僕らはとくに儀礼だてもしない。ゆるゆるお風呂でゲッチュウな気分でなんとはなしに、でもきたるべきコトには敬意を払いつつ時を過ごしている。
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